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(2)地形の洗掘速度と貝の潜砂速度
この「寄せホッキ」の?、?、?の現象について、考察する。?の水温低下による活力が低下する現象については、Fig-3.により説明できる。例えば、殻長3cmのホッキガイは水温20℃に対して潜砂速は約26mm/s、水温が5℃に低下すると約0.6mm/sとなる。従って、水温5℃の条件下では、潜秒速度は水温20℃に対して約1/4から1/5となり、活力が低下することが判る。
?の現象については、貝の潜砂速度と波による底面の洗掘速度を比較する必要がある。殻長2cmのホッキガイの潜砂速度は底質の粒径が0.27mmの場合、Fig-4.よると水温が20℃程度では約0.6mm/sである。しかし、水温が20℃から50℃と低下すると、前に述べたように潜秒速度は約1/4となり、潜砂速度は約0.15mm/sとなる。
一方、波による底面の洗掘速度については、大型造波水路を用いた地形変化のデータから推定することができる。例えば、粒径を0.27mmで整地した一様勾配1/20の海底対して、波高1.1m、周期6.0sの波を1時間作用させた場合の地形変化はFig-5.に示される。この図で示される地形変化のバーム深さ42cmと波作用1時間から洗掘速度を推定すると、約0.12mm/sとなる。この実験条件を寄せホッキが生じる現地の波浪条件に近づけるために、模型縮尺、1/5と仮定して現地換算すると、実験の波高は5.5m、周期は13.4s、波作用時間は2.2時間、これらのデータから洗掘速度は約0.27mm/sとなる。

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Fig-11. Scourring speed on sea bottom for Wave action

従って、通常の水温、つまり潜砂能力が失われていない場合は「時化」に遭遇しても露出することはないが、水温が低下し、潜砂行動が鈍くなっている時に「時化」に遭遇すると、露出することも有り得ると考えられる。
(3)波の底面流速と貝の移動限界流速
?の波による貝の海底面上の挙動と海岸への打上げについて考察する。前者については波による底面の軌道流速と貝の移動限界流速の比較により推定することができる。例えば、底面の軌道流速は、周期10s、波高が1mの場合、水深10mで0.43m/s、8mで0.49m/s、6mで0.59m/s、4mで0.74m/s、2mで1.08m/sとなる。これに対して、ホッキガイの移動限界流速は殻長が3cmの場合0.4m/s位と報告されている。したがって、波高が1m程度おさまっても一旦時化等によって海底面に露出してしまうと、波により移動させられる可能性があることが判る。
貝の海岸への打上げについては汀線上の流速と移動限界流速の比較により推定することができる。汀線上の打ち上げ流速は砂村9)によると、海底勾配が1/50とし、砕波波高が2.2mの場合、汀線流速は40cm/sとなり、殻長3cmのホッキガイの移動限界流速と同程度となる。従って、貝が底面上に露出している場合、汀線付近のホッキガイは砕波波高22m以上で海岸へ打上げられ、寄せホッキが生じる場合もあることが判る。
以上検討したように、冬季の「時化」の時、水温の低下などでホッキガイの潜砂能力が落ちる場合、海底に貝が露出された状態になり、波によって海岸に打ち寄せられると考えられるがこのような場合に潜堤を設置すれば波高を低減させ、貝を移動させる流速や貝を海岸へ打上げる流速を低減させることができる。
5. まとめ
平面固定床実験と模型貝を用いた断面移動床実験ならびに文献調査により得られた知見から、潜堤の海浜流などの流れ制御、地形変化制御、波浪制御効果により、二枚貝の卵・稚仔の流失低減、稚貝・成貝の砂上露出・移動および打ち上げ低減が図れること、つまり生息環境を改善できることが明らかになった。
さらに、海底地形は細砂からなる3/100より緩い勾配をもつ海岸での貝の増殖に効果的な離岸潜堤の設計の目安は、Fig-1.に示す通りであることが判った。
最後に、ホッキガイの生息環境調査については(財)海洋生物環境研究所実証試験所の城戸勝利氏、同中央研究所の木下秀明氏の協力を得た。ここに謝意を表す。
参考文献
1)生態系工学 第16回シンポジウム講演要旨、生態系工学研究会、50p、1996.
2)佐々木浩一:ウバガイ(ホッキガイ)の生態と資源、日本水産資源保護協会、p85、1993
3)長谷川寛:二枚貝増殖場造成のための離岸潜堤の水理的検討、研究報告U96059、28p.1996.
4)梨本勝昭、小島隆人、佐藤修:ウバガイの潜砂行動について、北大水産彙報Vol.37(3)、pp.171〜180、1986.
5)山下俊彦、和田彰ら:振動流場での二枚貝の挙動に関する実験的研究、海工第42巻、pp.506〜510、1995.
6)城戸勝利ら:発電所周辺海域を利用した二枚貝増殖場造成荷向けた生物的検討沿岸海洋研究33巻2号、1996.
7)渡辺栄一:波浪によるホッキガイの減耗に関する実験的研究、土木試験所月報、No351、pp.3〜15、1982.
8)桑原久実、日向野純也、中村義治、三村信男:波浪による二枚貝の移動予測モデルの妥当性と移動機構に関する研究、海工第41巻、1994、pp.376〜380.
9)砂村継夫:S wash zoneにおける岸沖漂砂量の算定式、第30回海工、pp.214〜218、1983.

 

 

 

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